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 老人は時代劇が好きだ。
 彼らが実際にちょんまげ姿で江戸時代などを生きてきた訳ではないので、懐かしくて見ているのでもないだろうに何故か時代劇番組の視聴者の多くは老人である。
 そしてその老人達とは対極にいる子供達が見ているものの一つにヒーローものがあり、この二つ、時代劇とヒーローものを比べてみると、シチュエーションこそ違えその出演者の性格やストーリー展開は殆ど同じであることが分かる。世界征服や私欲の為の弱いものいじめなどをする悪者がいて、それを何らかの特別な力を持った善玉が懲らしめたり更正させたりする、いわゆる勧善懲悪の内容だ。

 しかし時代劇を好む子供というのはあまり見かけないし、ヒーローものをワクワクしながら毎週見ている老人というのもいない。
 これは未知への可能性に興味を持っている子供と、過去におこった事実に基づいたものに興味を持つ老人との、向いている方向の差によるものと思われるが、作り手もこの事を意識して番組なり映画なりを作らなくてはならない。時代劇であれば過去の文献などを勉強して時代考証をある程度尊重しながら衣装や設定を考えていき、逆にヒーローものなどは実際には未知のもの、宇宙人や怪獣、近未来風の武器などを想像して作っていく必要がある。前者は完成度と勉強量が比例する、いわゆる再現性が評価の対象となるが、後者はゼロからつくるので、自分なりの一貫性を持ったコンセプトや、ある程度の方程式、そして何より作る人間のセンスに頼るところが大きい。

 今回は、彫刻家でありながら映画の美術監督などを生業とし、おそらくヒーローものとしては世界最高峰とも言えるウルトラマンやその怪獣達などのデザインを務めたことで最もよく知られる成田亨氏について取り上げてみる。氏は2002年2月26日、脳梗塞にて惜しくもお亡くなりになってしまわれたので、氏の残した文献などからの引用により生前の偉業に簡単ではあるが触れてみる。

Q1:幼年期について
 小学生の頃から絵が抜群に上手かった。クラスから一人だけ選ばれて絵が展示されたり、転校したてでいじめられそうになったりした時も軍艦や戦闘機を描いてその上手さで周りを圧倒していたという。
  昭和4年(1929年)の生まれなので中学生のころに戦争を経験しており、空襲で家を潰されるような経験をした後終戦となり、その後また絵を描き始める。
  画家阿部合成氏に師事した後に、彫刻家清水多嘉示氏に出会い構造的なデッサンを求めて彫刻家を目指す。
Q2:この仕事に入ったきっかけ

 武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)の研究科にいたころ、友人の急な依頼で東宝「ゴジラ」のミニチュアセットの製作を手伝うことに。
  これがきっかけでその後「ゴジラの逆襲」のセットなど映画美術に入っていく。当時は臨時のバイトのような存在だったにもかかわらず、ミニチュアセットの黎明期であった為リアル感の出し方やビルの壊れ方かどは、自身が仲間と相談しながら作り上げていった。
  このあたりのゴジラの特撮などは未だ持って世界が高く評価している日本映画のうちの一つである。

Q3:怪獣のデザインについて

 氏が怪獣をデザインする際には、独自に打ち立てた3原則というのがある。

  • 地球上のある動物が、ただ巨大化したという発想はやめる
  • 怪獣は化け物ではない。だから首が二つとか、手足が何本にもなるお化けは作らない
  • 体に傷をつけたり、傷跡をつけたり、血を流したりしない

 一つ目には「創造性」を大事にしたい、二つ目には怪獣は生き物であって、化け物のように死んだものの変形であってはならないということ、そして三つ目にはアメリカのモンスターのように血を流しながら生理的な気持ち悪さには訴えたくないという、それぞれにはっきりとしたメッセージがこめられている。

氏の画集
Q4:怪獣の誕生秘話

 氏はカネゴンからゼットンまで代表的な怪獣を多数デザインしているが、その中の数点の誕生秘話を上げてみる。

「ガラモン」
 コチという魚の口を描いてその上に愛嬌のある鼻と口をつけた。身体をだるまのようにして魚のヒレをたくさんつけ、手足はダチョウの首の骨となっている。

「レッドキング」
 身長が40メートルあるので下から見たときに高さを感じさせるように頭の小さいプロポーションにしている。

「ゴモラ」
 レッドキングとは逆に頭を大きくして少し下に向けることによって怖い圧迫感をだすようにしている。

「バルタン星人」
 当時の監督の意見を多く取り入れたもので実は氏的にはあまり好んでいないもの。ハサミに窓のようなものをつけて宇宙人らしさを出すようにしている。

「ゼットン」
 一番強い宇宙人という依頼により、強そうな感じのするものをいろいろつけたもの。顔は中世ヨーロッパの鎧のイメージで、鼻と口がある部分に縦に光るものをつけ新しいデザインにしてから、悪い奴をイメージして角をつけている。

Q5:特撮とは

 氏は特撮というものに対して二つのコンセプトを上げている。
 一つは「映画の中の特撮」であり、これは特撮ということを観客に意識させない、させてはいけないもの。氏の手がけた中では「新幹線大爆発」や「わが生涯は火の如く」などがそれにあたる。
 もう一つは「特撮映画」。これはウルトラマンなどに代表される「これが特撮だ!」言わせるようなもの。氏は「特撮映画」のみならず前者の製作に対しても、遠近法の応用などを使って当時から独自の手法を追求していた

>>後 編

成田亨
1929(昭和4)年に神戸で生まれる
1954(昭和29)年、東宝映画「ゴジラ」の制作へ参加したのをきっかけに、映画美術の道にすすむ。
代表作として「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などがある。
2002(平成14)年脳梗塞にて亡くなる。

この記事により氏に興味を持った読者はYamakenさんが制作、運営管理されているサイトでかなり詳しく掘り下げているので一度見てみよう。
そしてフィルムアート社のサイトでは今回参考にさせて頂いた書籍を出版販売しているのでこれも要チェックだ。
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