インタビュー
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杉原嵩之氏 杉原嵩之氏
  それはクリエイティブの世界に限ったことではないが、現業に別の分野から転進してきたというケースをしばしば見かけることがあり、それらは没個的になりがちな状況でも異彩を放っていることが多い。野球選手が格闘家になったり、高校教師がミュージシャンになったり、漫才師が映画監督になったりと途中で大幅に路線を変えた人は、視野の広さか先入観の無さか、パフォーマンスや作品もドラスティックでオリジナル感の強いことが多い。

民族単位の移動の多いアメリカの映画や小説では「自分がどこから来たのかを忘れるな」というフレーズをよく耳にするが、それは地理的なことだけではなく環境や背景も指している。いくら金持ちになって上流階級に入っても、ゲットーの仲間を忘れるなという使い方だったり、生まれや育ちがアメリカでも祖先、というより数代前にアフリカやアジアからきたばかりであることの文化的な意味を絶やさずに今に活かせ、という意味だったりする。

実際クリエイティブ分野でもまさに生え抜きではないが為に、クリエイター自身が分野をスライドする前に元々居たジャンルのセンスやコンセプト、視点や味付けなどを忘れずに新たに融合させ、それまでにないあたらしい作品を作り出しているケースも多々ある。

特にグラフィックデザインの分野では、イラストをベースとしたり写真家がグラフィックも手がけていたりとクロスジャンルなケースもよく見かけるが、その中でも建築分野出身のデザイナーは「機能優先」の分野からきているだけに、その作品にも無駄のない美しいものが多い。

今回はそんな、建築を学んだ後にグラフィックデザイナーとなり、現在「+81」のグラフィックデザインから某大手自動車メーカー用次世代端末のインターフェースのデザインまでを幅広く手がける杉原嵩之氏にインタビューを試みた。


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 Q.現在活動している環境を教えてください。
現在はフリーランスです。数年前に外資系のデザインプロダクションに属していて、それと平行して知り合いと二人で合資会社を作ってユニット活動をしていたのですが、やはり一人三役は忙しくなりすぎて、今はフリーランスで仕事のプロジェクトごとに人を集めたり集められたりしてやっています。フリーランスというものの社会的認知度というか信用度も昔と比べると上がってきたので、今はこれが一番しっくりきますね。
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▲最近の作品

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▲最近の作品
 Q.子供時代に思っていた、今位になっていたかったものはなんですか。
小学生のころから美術時間に描く作品なんかが毎回クラスで金賞などをもらっていたので、特に意識する訳でもなく、当たり前にクリエイティブなことを将来やるんだろうなとは思っていました。
それが中学に入って美術の授業が遊びの時間になってしまい、何もせずに過ごしてしまったので高校に入ってから美術系の大学を目指している人達と比べて自分は取り戻せないくらい出遅れたなと肌で感じていました。それで、じゃあ美術系じゃないクリエイティブってなんだろうと思い建築に行って、そこから今にいたります。

 Q.制作にあたって自分のテイストとクライアントの要望とのバランスはどのように消化していますか。
これは永遠のテーマみたいなものですが、初めから自分の目指すものとあまりに違うイメージをクライアントが抱いていることが分かっている場合は仕事自体をお断りするのですが、よくあるパターンではじめは好きにやっていいよ、と言われていて徐々にクライアントが口を出すことが多くなってくることがあります。そういう場合はどこまで相手のいうことを汲んだ上で自分が納得できるものができるかを探求します。
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▲最近の作品

▲3月に行われた+81参加デザイナーによるグラフィック展[+81 Graphic Exhibition]の時の作品
 Q.依頼から納品(発表)まで、一つのプロジェクトの簡単な流れを教えてください。
はじめに知り合いやWEBを見たという人、それから噂をきいてなどという人達から依頼がきます。営業は特にしたことがないので話が話をよんでいるんだと思います。
そしてまず話をききます。その時に相手が何を求めて自分に依頼してきたのかを出来る限り具体的に確認します。その時にお金の交渉もします。
これはクリエイターには苦手な人が多いと思いますが、プロとしてやっていくのであれば絶対にここをきちっとやることがまず必要だと思います。そこでもらうものが今後の制作にもつながるし、自分自身の価値にも直結することなので大事です。
そしてそこから幾つか提案をして、絞り込んで納品まで持っていきます。相手によってはぱっと終えてしまうこともあるし、可能性を追求できそうな先には更にそこからいろいろと提案して長いスパンでやることもあります。


▲3月に行われた+81参加デザイナーによるグラフィック展
[+81 Graphic Exhibition]の時の作品
 Q.クリエイティブにあたって「これは絶対」というような自分のルールはありますか。
制作に入る前に何も考えずにぼーっとする時間を作ります。実際はいろいろ考えているんだけど、ただ本を読んだりリラックスして制作のモチベーションを高めたり、複数の制作が同時進行している時は良い頭の切り替えにもなります。どんな忙しい時でも1時間でもよいのでこの時間は必ずとりますね。

● 次回は氏の現在の活動について掲載予定。お楽しみに!