Make it Move
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part12
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今週のサンプル This week's sample

「当日のイベントロゴ」
(画像をクリックすると別ウインドウでムービーを再生します。)

part12

 当日は12時開場・13時30分試合スタートだったので、リハ(*1)が10時からで、入り(*2)はその逆算で朝の8時になっていた。
 その頃は正月とは言え、生活が完全に制作モードになっていたので、朝が早いというよりは寝ないでそのまま行ってしまった。しかし本番10日程前にやった全体ミーティングでもらった進行表によると、花道(*3)などの設営の人達は前日22時位から入っているとのことで、どちらにしろ朝8時が早い、などとは言ってはいられない状況であった。
 当日のVJセットは、入場時のリアルタイムの素材用に用意したカメラ2台とFUSEの入ったPowerBook、そしてバックアップのDVカセットをMX-1につなぎ、それのアウトにKORGのKAOSSPADを通したものと、これまたFUSEからの素材出し用のPowerBookもう1台をV-5につないだ。

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▲VJブースはリング(左奥)も至近距離

 設営自体はもう何年もやっている者の集まりなので15分もかからずできた。現場にはずっとこの興行をやっているテレビ朝日のクルーと清水ビジュアルのクルーがおり、それは気持ち的に助けられた部分もあるが(*4)逆にVJを物珍しそうに凝視している人達もいて、外様の自分としてはトラブルに対して必要以上に敏感にもなっていた。
 しかしここで第1のトラブルが発生。FUSEはスキャンコンバーターがいらずSケーブルで映像出力ができるのだが、なぜかそれをMX-1に通すとノイズが発生した。何度再起動してもだめ。Sケーブルを買いなおして取り替えてもNG。ドームのオーロラビジョンがノイズで揺れている。本番でこれはあり得ない話である。
 結局理由はわからずPowerBook1台をFireWire経由でフルサイズ(720×480ピクセル)の素材を出すようにDVカメラにつないでDV圧縮のムービーを流す形に急遽配置変え。こういう時のために素材は必ず320×240ピクセルのものと720×480ピクセルの両方を持っていくようにしているのだが、それが役に立った形だ。
 そして第2のトラブル。入場前はもっと暗くなると思っていた会場が意外にずっと明るかったので、真っ暗を想定して作ってきた「ポツンとした光が徐々に大きくなってくる」ような素材が始めはほとんど見えない状況になってしまった。しかしこれはVJらしく本番中も他の派手な素材とミックスすることによってどうにか回避した。

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▲入場シーンは試合を盛り上げる大事な一要素。
失敗は許されないだけに緊張が走る。

 リングアナが通常とは違うアドリブのセリフ(*5)で選手をコールするような楽しいテクリハ(*6)はあっという間に過ぎ、気づいたらお客さんがどっと入ってきていた。
 そして本番。実際選手の入場は1分半あるかないかなので通常のクラブでやる「1時間位やってから調子が乗ってくる」というノリでは調子が乗る前に全てが終わってしまう。
 そんな訳で試合の最中など次のスタンバイくらいしかVJとしてはすることがないその間に次の素材をミックスしたりしてテンションを高めていた。

 永田選手、天山選手と滞りなくこなし、蝶野選手になる頃には自分のテンションが最高潮に達していたので派手にやったのは覚えているが、それが良かったのか悪かったのかはもはや客観的に覚えていない。後で選手本人に訊く機会をもらうも「俺は入場してたから見てないよ」と当然のことを、活字で見るより迫力のある感じに言われてしまい(*7)、もともと依頼をもらった某社のK氏に訊いたところ「よかったよ!」と言われ、とりあえずは一安心。
 そこで初めてどっと疲れが出て、やっと「ああ、年が明けたんだ」という感じがした。

 結果的には試合はほとんど見られなかった(というか覚えていない)が、後で訊いたらクライアントである新日本にも気に入ってもらえたようでVJという存在の幅がまた少し広がった気がする正月ではあった。

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▲無事終わった!

(*1)リハ=リハーサル=予行演習。イベントではリハーサルにも何種類かある。ここでは主要な箇所を実際と同じように出演者が動いてテストする「通しリハ」のことを指している。
(*2) 入り=入り時間。会場に集合する時刻。スタッフの種類や担当する内容によって時刻が異なるので事前にスタッフから指定される。
(*3) 格闘技会場の花道は、控えているバックステージからリングへと向かう長い通路を指す。遠くの観客からも見えるよう、リングと同じ高さになっている。
(*4) 何度か仕事をしたことがあるスタッフだと、お互い仕事が進めやすい。トラブルが起きたときでも協力してもらえる。初対面でかつウマが合わないスタッフの場合気疲れして、余計にミスするケースが多々ある。
(*5) 新日本プロレスの看板リングアナ氏による、裏話を織り交ぜたコール。内容はここでは書けないようなネタ。
(*6) テクニカルリハーサル。映像、音声、照明などのチェックを行う。出演者は出てこず、マネージャーやスタッフが代理で「場当たり」という位置あわせの確認をする。照明をきちんと当てたり、歩く経路や速度、音楽のスタートタイミングなど細かい確認作業を行う。
(*7) 試合終了後、シャワーを浴びてすぐだった。

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MOOK1MOOK1
Vision QuestやageHaといった巨大クラブイベントやブランドや車メーカーなどのショウでもプレイするプロのVJ。
Chilled LoungeといったコアなパーティではDrum'n' BassのDJも務める。
著書「Make It Move!」
WEBSITE >> www.mook1.com